英雄の歌い手Ⅲ

「吟遊詩人見習い、リースよ。
そなたの成し遂げた偉業は、
かつてこの国に名を馳せた
英雄たちにも決して劣らぬ。
よって、王の名において
騎士の称号を授け、
新たなる騎士英雄として、
そなたの名を
王国の歴史に刻むものとする。」
その後、
リースとアルドは、
さらに2つほど、
王命の任務にあたり、
功績を残し、
アルドは宮廷詩人、
リースは新たな騎士英雄として
城に迎え入れられることと
なった。
というか、
国王の宣言を聞くまで、
自分の身分が
吟遊詩人見習いであることを
すっかり忘れていた。
とんだ大出世である。
*

「あらあら」
「吟遊詩人として
私にお詩(おうた)を
届けてくれるのを
いまかいまかと
楽しみにしていたのに」
「騎士英雄として
お城に
きちゃうなんて」
王城の廊下で
聞き覚えのある声に、
リースが振り返る。
そこにいたのは、
鮮やかな青い髪を持つ
一人の少女だった。
「ふふっ
覚えていて
くれたのね」
相変わらず、
リースは
何も発言できないまま
話が進んでいく。
こちらの都合に
構いもせず、
自分の言いたいことを
述べ続ける
そんな少女の肩には、
見慣れない
小さな生き物が
ぱたぱたと
翼を動かしている。
真っ白な鱗に、
小さな翼。
どうやら
子どものドラゴンのようだ。
ドラゴンには
妖精たちが見えるのか
妖精たちの動きに合わせて
小さな顔を
右へ左へ動かしている。
リースは
少女の話を聞きながら、
そちらの方も
気になっていた。
しかしやはり
こちらが持つ疑問など
全く気にせず
続きを話し始める。
「あのときの約束は
覚えているかしら?」
「お城で
あなたの詩(うた)を
聞かせてほしいと言った
あの約束を」
「は!!」
「まさか、あなた!
自分自身の英雄譚を
詩にして
私に聞かせるつもりじゃ
ないでしょうね!」
「新しい騎士英雄様は
どれだけ
自慢しいなの!?」
「驚いたわ!?」
「ち、
違いますよー!」
「ふふふ、
あらそうなの?」
「だけどまさか
あの草むらに隠れて
騎士たちの活躍を
こっそり見ていた
あなたが」
「今度は、
この国の騎士たちを
助け出して
しまうだなんて」
リースは、
少し困ったように
笑った。
実際、
自分でもまだ
実感が湧いていない。
つい先日まで、
騎士たちの活躍を
蝋板に書き留めていた
詩人見習いだ。
それが今では、
王から騎士の称号を
授かってしまい、
新たな騎士英雄として
詩まで作られてしまう
始末だ。
「あっ、でも!」
「師匠、
アルドさんも
宮廷詩人に
任命されたんです!」
「だから、
お城で詩を聞くことは
できると思いますよ!」
「あら、
そうなの?」
「それは嬉しいわね」
「でも
私が聞きたかったのは、
あなたの歌なのだけれど」
「だって、
あのとき
言っていたでしょう?」
「アルドさんの詩に救われて、
自分も人々に
生きる希望を与えられるような
ミンストレルになりたいって」
「それで、
そんなあなたが
どんな詩を歌ってくれるのか
気になって
あの約束をしたのだけれど…」
リリアは、
少し考えるように
首をかしげつつ
リースを見る。
「まぁ
それでも構わないわ」
「そうね…
英雄アルヴェインについて
ご存じかしら?」
「この国に
昔仕えていた、
あなたと同じ、
騎士英雄なのだけれど」
リースはその
名を聞いて、
目線は地面に向けたまま
目を丸く見開いた。
「私、彼の物語が
好きなのだけれど」
「彼のような…」
今、
まさか
その名前を聞けるなんて。
騎士英雄
アルヴェイン。
彼は王の命令とあらば
どんな無理難題でも
引受け、
その度、必ず王のもとへと
帰還した。忠義の騎士。
そして、
その英雄譚こそ、
吟遊詩人である師匠、
アルドとの
出会いのはじまりの曲であり、
そして、
当時、飢えに苦しんでいた
リースに生きる勇気を与えた
英雄譚そのものだったのだから
「聞いてるのかしら?」
「は、はいッ!
すみません!」
「はぁ
騎士英雄アルヴェインの英雄譚が
また聞きたい」
「そう、アルド様に
お伝えして
おいてもらえる?」
「ところで、
あなたも吟遊詩人様の
おそば付きだったのだから
好きな英雄譚も
あるんじゃないの?」
「それも
教えてもらえる?」
「私の知らない
英雄のお話かしら?」
*

王城の一室。
新たな騎士英雄として
迎え入れられた
リースには、
立派な個室まで
与えられていた。
しかし、
そんな部屋の中で、
机の上に肩布を広げ、
リースは
針と糸を手に
苦戦を強いられていた。
「……うーん…」
精霊の加護を宿した、
肩布は、
これまでの戦いで
すっかり傷んでいた。
今に
はじまったことではない。
ギルドで冒険者たちと
魔物討伐を
していた時からだ。
無理もない。
もとより
ずっと身につけていた
ただの大きめな布で
それに
魔法をかけてもらったに
過ぎない。
しかし、
最近はそれが
深刻な状態に
なっていた。
あちこちに
小さな穴が開き、
端からは糸が
ほつれ始めている。
リースは
破れた部分を寄せて、
一針ずつ
縫い合わせていた。
「わー。
リース
裁縫下手くそだねー!」
「縫っても縫っても
そこから大きく
裂けてきてるー!」
妖精たちに
あれこれ言われながら、
なんとか針を進めていく。
一つ縫い終えても、
まだ別のほつれが
残っている。
まだまだ
時間がかかりそうだ。
「……ふぅ」
リースは
小さく息をついた。
そして、
飛んではしゃいでいる
妖精たちを見た。
妖精たちは
リースが活躍するたびに
どんどん増え、
一度は12人ほどまでの
大所帯になっていた。
しかし、
だんだんと減っていき、
今でははじめの
3人に戻っている。
肩布の状態と
妖精は
関係しているのだろうか…。
そんなことを
考えながら
飛び回る妖精たちを
眺めていると、
開け放した窓から、
どこか聞き覚えのある
歌声が聞こえてきた。
どうやら、
中庭でアルドが
詩を披露しているらしい。
聞き慣れた節回し。
しかし、
歌われている内容は――。
北の関所。
空を駆ける少年。
そして、
獅子の魔獣。
「…………」
リースは
針を持ったまま
動きを止めた。
……これ、
ボクの歌だ。
宮廷詩人となったアルドは、
今日もまた、
リースの武勇を
歌い上げているらしい。
しかも、
ずいぶんと
大げさに。
「師匠……。」
リースは
思わず顔を伏せた。
「リースの歌だー!」
「アルドさんが歌ってるの!
これリースの詩だよね!」
「英雄様だって!」
「恥ずかしい……。」
妖精たちまで
その音楽に合わせて
楽しそうに騒ぎ始める。
かつては、
自分がアルドの歌を聞いて、
英雄たちの冒険に
胸を躍らせていたのに。
まさか、
自分が歌われる側に
なるだなんて。
リースは
なんとも言えない気持ちで
窓の方を見た。
中庭からは、
まだアルドの歌声が
響いている。
「……はぁ」
リースは
もう一度肩布に目を戻し、
針を動かし始めた。
*
次の日。
リースは再び、
王の御前へと
呼び出されていた。
謁見の間には、
数名の騎士たちと、
宮廷詩人アルドの姿もあった。
「騎士英雄リースよ」
王が口を開いた。
「そなたに、
新たな王命を下す」
「我が王国の領内に、
かつて多くの民が
暮らしていた村がある」
「しかし今は、
魔獣によって
その土地を奪われ、
人の住まぬ廃村と
なってしまった」
王は
一度言葉を区切った。
「そして近頃、
その村に巨大な
茨の魔獣が
根を下ろしたとの
報せが届いた」
「茨は家々を覆い、
道を塞ぎ、
今や人が近づくことすら
叶わぬという」
……茨。
リースは、
思わず自分の肩へ
目を向けた。
今は
肩布を外している。
昨日のうちに
縫い終えることが
できなかったからだ。
最近、
肩布の
修理を繰り返している。
何度、縫ってもまた
ほつれてきてしまう。
もし
茨に引っかかったら…。
その魔物の身体に
茨があったら、
今度こそ…。
「そこで、
そなたに命ずる」
王の声に、
リースは顔を上げた。
「討伐隊とともに
かの地へ赴き、
茨の魔獣を討ち果たせ」
「そして、
失われた土地を
我らの手に取り戻し、
再び民が暮らせるよう、
復興への道を切り開くのだ」
「此度の任には、
国の精鋭たちも
同行させる」
「よいな?」
「はい!」
リースは
慌てて姿勢を正した。
*
謁見の間を出たあと、
リースはアルドと並んで
王城の廊下を歩いていた。
「そういえば、師匠」
「あん?」
「前に、
まだ生きている人の
英雄譚は歌っちゃいけないって、
言ってませんでしたっけ?」
アルドは
少し考えるように
首をかしげた。
「あー、
そういやそんな話も
したなぁ」
「じゃあ、
どうしてボクの英雄譚を
歌ってるんですか!?」
「街の酒場とか
冒険者ギルドで歌っていた時は、
冗談半分な愉快な誇張がされた
詩だったから
よかったですけど」
「昨晩のボクの詩は
本気の奴だった
じゃないですか!」
「なんだよ、
聞いてたのか!」
「ちょ、
ちょっと恥ずかしいなおい…」
「恥ずかしいのは
こっちです!!!!」
「まぁなに
生き英雄の詩を
歌ってはいけないなんて
ジンクスとかマナーのような
話だろ
気にすんな。」
「俺もどこで聞いたのか
覚えてねえしな」
「はあ…
でもあの詩はちょっと
大げさすぎですよ」
「なんだ。
気に入らなかったのか?」
……。
「はっはっは!」
「まあ、
多少大げさなくらいが
英雄譚ってもんだ!」
「いつもは
目を輝かせるばっかりで、
出来の悪い
見習いの報告をもとに
詩を作ってたんだが」
「今回は
俺が直接目に焼き付けたものを
歌っているからな」
「自然と熱も
こもっちまうって
もんよ」
「っはっはっは!」
アルドは
上機嫌に笑いながら
廊下を歩いていく。
騎士英雄に、
宮廷詩人。
二人とも、
ずいぶんと
大層な肩書きを
もらってしまった。
けれど、
師匠である
アルドの様子は
昔と何も変わらない。
相変わらず
豪快に笑い、
いい加減なことを言っている。
リースは
そんな師匠の背中を
眺めていた。
*
その夜。
リースは
自室の机で肩布を広げ、
昨日の続きを
縫い直していた。
「……あれ?」
昨日、
確かに縫い合わせたはずの
場所が、
またほつれている。
それだけではない。
よく見ると、
今日は肩布を
身に着けていないにも
関わらず、
昨日まではなかった
ほつれが増えていた。
リースは
不思議そうに
肩布を持ち上げた。
「リース、
今日も縫ってるー!」
「やっぱり
なおらないねー!」
「うん」
「でも
また王様から命が
下されて」
「明日、
茨の魔獣を
討伐することに
なったんだ」
「いばら?」
「そう」
「だから、
その茨に
引っかかったりしたら、
もっと破れちゃうんじゃ
ないかと思って……」
「ちょっと
心配してるんだけど…。」
リースはそのまま
針を動かし続ける。
「……ねぇ、リース」
「ん?」
その妖精の声は
どこか
元気がないようだった。
そして、
「それ、
もう縫わなくていいよ」
「……え?」
「だって、
もう直らないもん」
リースは
手を止めた。
「……どういうこと?」
「実はね、
その布、
ずっと前から
ぼろぼろだったんだよね」
「ほんとは、
もう形も保てないくらい!」
「……え?」
「この布に
加護をかけてくれた
魔法使いさんのこと、
覚えてる?」
「……エルムさん?」
「そう!」
「あの人ね、
あのとき、
この布を
魔法を使って、
魔法の糸で
縫い直してくれたんだよね」
「でも、
その魔法の糸が
もうほどけかけてるの」
「本当はその魔法って
こんなに長い時間
効くような
魔法じゃなくて」
「リースが寝ている間に、
わたしたちが
魔力を流して
繋ぎ止めてたんだよね!」
「だけどその糸自体が
ぼろぼろになってて、
これ以上は
繋ぎ止められないんだ」
「……そんなこと…
してくれてたんだ…」
「そのことを知らずに
一生懸命
縫ってるリース、
面白かったー!」
「ふふふ」
「……えぇ……」
リースは
なんとも言えない顔で
妖精たちを見た。
「でもね」
「さっきもいったけど、」
「それも、
そろそろ限界なんだ」
「……。」
「……そ、それじゃあ、
ほかの魔法使いに
お願いするのは?」
「新しい布を買って
それに加護を
つけなおしてもらうとか」
「うーん……」
「たぶん、
難しいと思う」
「あの人が使った
魔法って、
普通の魔法とは
ちょっと違うんだよね」
「魔法の本にも
載ってないような、
すごく難しい魔法なの!」
「魔法がどうして
生まれるのか」
「どうやって
世界と繋がっているのか」
「そういうことを
ちゃんと
知っている人じゃないと、
できないと思う」
リースは、
エルムさんの
優しい詩のような
詠唱を思い出す。
『風に遊び、星に眠る
小さき隣人たちよ。
糸を道とし、
布を宿とし、
この者の声を、そなたらへ。
そなたらの声を、この者へ。
手を貸すも、背を向けるも、
そなたらの心のままに。
我は命じず、ただ縁を結ぶ。
――精霊の加護よ、ここに宿れ』
「……そっか…。」
リースは
手元の肩布を見た。
幾度もの戦いで
傷つき、
何度も何度も
縫い直してきた肩布。
それが、
もう直らない。
「……じゃあ、
この布が壊れたら、
みんなはどうなるの?」
「んー、
どうなるんだろう?」
「でも、
リースとは
お話しできなく
なっちゃうかも」
「……そっか」
「だからね、
リース」
「そろそろ、私たち、
お別れしないと
いけないかも。」
「色んなところに行って、
色んな冒険をして
楽しかったー!」
妖精たちは
いつもと違い、
どこか
寂しそうに
声を出すものの、
妖精たちは
いつものように
笑っていた。
しかし
リースは
もう一度、
肩布に目を落とした。
手元には、
まだ縫いかけの
糸が残っている。
けれど、
リースはそれ以上
針を進めることが
できなかった。
*
それからも、
リースは
しばらく机の前に
座ったままだった。
目の前には、
まだ縫いかけの肩布が
広がっている。
もう夜も遅い。
早く休まなければ。
そう思うものの、
なかなか身体を
動かす気になれなかった。
……お別れ、か。
リースは
肩布を見つめた。
いつも
当たり前のように
そばにいて、
一緒に旅をして、
魔物と戦って、
時にはふざけ合っていた
小さな妖精たち。
それが、
もうすぐ
終わってしまうらしい。
……。
やがて、
リースは
針を机に置き、
寝台へと
身体を横たえた。
しかし、
なかなか眠れなかった。
目を閉じても、
妖精たちの言葉が
頭から離れない。
これから先、
どうすればいいのだろう。
そんなことを
考えているうちに、
いつの間にか、
夜は更けていった。
*

翌朝。
ドンドンドンッ!
激しく扉を叩く音に、
リースは目を覚ました。
「……!?」
まだ眠い目をこすりながら、
身体を起こす。
しかし、すぐに
城に漂う空気に
違和感を感じる。
「騎士英雄リース殿!」
「至急、
謁見の間へ
お越しください!」
扉の向こうから、
切羽詰まった声が
聞こえてくる。
「……え?」
「何かあったんですか?」
そう尋ねながら
扉を開けると
廊下のあちこちで、
王国の騎士たちが
影のような騎士に
取り押さえられていた。
剣を抜くことすら
できなかったのか、
床には何本もの剣が
転がっている。
「見ての通り
城内に正体不明の
影騎士たちが現れ、
王国の騎士たちが
次々と
捕らえられています!」
「……あの手練れの
騎士たちが…」
リースは
慌てて身支度を整え、
剣を手に取った。
そして、
そのまま部屋を飛び出した。
机の上には、
昨夜の肩布が
広げられたまま
とり残されていた。
*
謁見の間─。
リースが
大扉をくぐると、
王国の威厳を象徴する
その場所は、
今や得体の知れない影に
支配されていた。
玉座の前には、
国王と王妃、
そして複数人の
城の騎士が並び、
黒い影をまとった
影騎士たちに
取り押さえられている。
そして、
その少し前には、
古めかしい
黒い礼装に身を包んだ、
一人の女性が
立っていた。
白い片割れの仮面。
胸元には、
青緑色に輝く宝石。
しかし、
何よりリースの目を
引いたのは、
あの
英雄譚が好きな
青い髪の少女だった。
少女は、
黒礼装の女の
腕に捕らえられ、
首元には、
黒い影で作られた
短い刃が
突きつけられている。
「……騎士英雄……」
かすれた声が、
謁見の間に響く。
「……騎士英雄を、
差し出せ……」
「……証明せよ……」
「……証明せよ……」
「…騎士英雄……」
「……証明せよ……」
そして、
黒礼装の女の背後にいた
一際、
いや、
別の個体のように
大きな影騎士が、
ゆっくりと
歩み出てきた。
深い翠色の鎧。
その手には、
巨大な斧が
握られている。
「……剣を取れ……」
そして、
女は
再び口を開いた。
「……証明せよ……」
*
「よぉ、リース」
「やっと来たか」
入口の近くでは
アルドが
影の騎士に捕まっていた。
「あのお客人さん、
ずっとあの調子でな」
「おそらくだが、
お前の英雄譚を聞きつけて
お前が英雄である
資格があるか
それを確かめるために
ここに来たらしい。」
「だとしたら
これを呼んじまったのは、
俺のせいだ…。」
「俺がうかうかと
調子に乗って
騎士英雄リース、
お前の
詩を作って
それを歌っちまったせいだ
すまん」
「だけど
俺はあの詩を
なかったことに
するつもりはねえ」
「お前が
実際、英雄か
英雄たる存在か
どうかなんざ
どうでもいい。」
「だけど俺は、
ずっと小さい頃から
お前を見てきた。」
「お前がどんな奴かは
俺が一番よく
知っている。」
「どんな無理難題を
押し付けられても
必ず俺の元に返ってくる」
「その姿は、まるで
お前の大好きな
騎士英雄のようにな」
斧を構えながら
近づく翠の騎士。
「良い機会だ。
過去の
どの英雄にも
引けを取らないって
この喪服の女や、
王様、お姫さん、
そのほか
そこらで見学している
お城の騎士様たちに
証明してやれ!」
「お前が
真の英雄であることを!」
そして、
その巨体が
一気に距離を詰める。
リースも、
剣を抜いて構える。
ガキィィンッ!!!
リースは
振り抜かれた斧を
剣で受け止めようとした。
しかし──、
その重さに
腕が耐えきれない。
剣ごと身体を押し込まれ、
そのまま
リースは、
強く吹き飛ばされた。
石造りの床を
転がりながら、
ようやく身体が止まる。
「リース!!」
アルドの声が響いた。
……。
これまで
何度も魔物と戦ってきた。
だが、
そのたびに
妖精たちが助けてくれた。
危険を知らせ、
足場を作り、
剣に魔力を宿してくれた。
今は、
そのどれもない。
ただ斧で殴られ
それに耐えきれず
吹き飛ばされただけ。
それだけで
腕は痺れ、
足は持ち上がらず
立ち上がれない。
妖精たちがいなければ、
結局自分なんて
この始末だ…。
「……証明せよ……」
再び、
女の声が響いた。
違和感を感じ
リースを見る
アルド
リースは
腕を押さえ、
なんとか立ち上がり、
足を
引きずりながら
顔を上げた。
女の傍らには、
今もあの青い髪の少女が
捕らえられている。
同じ英雄が好きな
この国のお姫様。
……。
「……待ってください」
リースは、
黒い礼装の女性に
向かって
声をかけた。
「ボクは……」
「ボクは、
英雄なんかじゃない!」
「今まで
魔物を倒して
こられたのも、
妖精たちが
力を貸してくれただけだ!」
「それに最初の頃は、
わざと魔物を
冒険者たちの近くへ
誘い込んで…」
「みんなを騙して、
英雄だなんて
呼ばれるようになって…」
「そのまま、
王様から騎士の称号まで
いただいてしまって……」
「だから……」
「あなたが探している
本物の英雄は、
ボクじゃありません」
「ボクには、
英雄を名乗る資格なんて
ないんです」
「だから、ボクの首を
差し上げますので
皆さんを
解放してください…。」
そして、
リースの目の前まできた
翠の騎士は、
「…つまらん…」
そうつぶやき、
大斧を振り上げた。
そして─、
その刃が
リースの首に
届くことはなかった。
三人もの王国騎士が、
間に飛び込んできたのだ。
ガキィィィンッ!!!
騎士たちは
自らの剣で
勢いよく
振り落とされた
大斧を受け止めていた。
その背後では、
別の騎士たちが
連携を取りながら
影の騎士と
交戦をはじめている。
「首…?」
……あいつ、
肩布はどうした?
じっと、リースの様子を
眺めていたアルドは、
ここにきてようやく、
リースが肩布を
付けていないことに
気がついた。
いつもなら、
鎧に
留めているはずの
精霊の加護が
施された布がない。
そして、
近くを
心配そうに
あたふた飛び回っていた
小さな白い竜に
目を向けた。
「ちっちっ。」
小さく指を動かし、
竜を呼び寄せる。
そして、
その耳元に
顔を近づけた。
「リースの部屋に
肩にかける布が
あるはずだ」
「そいつを、
持ってきてくれねえか?」
小竜は
アルドの顔を
じっと見つめた。
そして、
小さな翼を動かし、
飛び立とうとする。
そのときだった。
何もない空間を、
小さな光が
いくつも横切った。
リースのことが
心配で、
妖精たちも
ここまで
ついてきていたのだ。
小竜は
その光を目で追った。
妖精たちも、
小竜が自分たちを
見ていることに
気がついたらしい。
「こっち!」
「こっちだよー!」
妖精たちが
廊下の方へ飛んでいく。
小さな竜は、
そのあとを追って
謁見の間を
飛び出していった。
*
リースを庇い、
翠の騎士と
しばらく交戦をしていた
王国騎士たちだったが
先まで、
その者たちを捉えていた
影騎士たちと交戦となり、
また
翠の騎士とリースは
一対一になってしまう。
しかし先程とは違い、
そこら中で、
剣戟の音が交わされている
リースにとって
その音が
その音の数が
自分を英雄だと
信じてくれている
人の数のように感じていた
リースは
剣を構え直した。
先ほどとは違う。
嘘つきの英雄ではなく、
みんなが信じ、
みんなが助けてくれる
本物の英雄として、
剣を構え直した。
考えてみると
簡単なことだ
目の前にいる翠の騎士は
関所の魔獣のような
四足動物ではない
大斧なんていう
重い武器を使っていれば
簡単に避けられ、
簡単に隙ができる。
とはいえ、
やはりこの騎士も
熟練者なのだろう。
巧みに斧を持つ手を
組み換え、
隙を減らし、
こちらが
剣を振ろうものなら、
反撃と称し、
骨まで砕くほどの大斧を
叩き込んでくる。
翠の騎士は、
わざと
その一撃を誘い、
自分の身を
少し斬らせて、
大斧で断ち返す。
自分の防御力に
自身があるからこそ
できる芸当だ。
ただ、
それなら
まだわかる。
しかし翠の騎士は
全身を鎧に包まれ、
その中に
人が入っているような
気配さえない。
そもそも、
斬らせる肉がないのだ。
とんだ
詐欺師である。
再び
斧が振り上げられる
リースは、
何度も魔獣と戦い、
幾度となく
死線をくぐり抜けてきた。
確かに、
その度に妖精たちの
力を借りてきた。
しかし、
戦ってきたのは
リース自身でもあった。
そして─。
「リース!!」
師匠、アラドの声だ。
目の前を
白い小さな竜が
素早く横切る
そして
精霊の肩布─。
「これで最後だね。」
「今まで楽しかったよ!
リース!」
「また会おう!」
リースの剣が光りだす─。
そして、
振り下ろされた剣は
翠の騎士の鎧を貫き、
真っ二つに引き裂いた─。
そして、
翠の騎士と、
ボロボロの布切れは─、
同時に消滅した。
*
肩布をなくし、
妖精の力を失ったリースは、
騎士の称号も返上し
王城を去ろうとした
リースとアルドに、
背後から声がかかった。
「そういえば、あなた」
「まだ、詩を聞かせて
もらってないわよ?」
振り返ると、
そこには
青い髪の少女がいた。
肩には、
あの白い小竜も
ちょこんととまっている。
「この前は、アラドさんで
我慢するって
言っちゃったけど」
「やっぱり
あなたの詩が聞きたいわ!」
青い髪のお姫様は
いつもの調子で
そう言ったあと
こちらに向かって
微笑んだ。
「えー…」
「だってボク、
詩はまだ見習いですし」
「上手く歌えるかどうか…」
「上手いかどうかなんて
関係ないわ」
「私はあなたの詩が
聞きたいのよ」
「歌ってやれリース」
「この嬢ちゃんは、
てこでもお前の詩を聞くまで
離れないつもりだぞ」
「演奏ならしてやるから
ほら早く。」
「ほら早く!」
ふたりに
急かされながら
しぶしぶ
歌い始めるリース
リースは
小さく息をついた。
これまで、
何度となく
師匠の隣で
耳を傾けてきた英雄譚。
その曲はもちろん、
二百年前の騎士英雄、
アルヴェインの冒険譚。
王の命を受け、
数々の困難に立ち向かい、
その度に、
必ず王のもとへと
帰還した騎士英雄の物語。
お姫様にとっても、
何度も耳にした
聞き慣れた歌だった。
けれど。
今日のその歌は、
なぜだか、
目の前の少年が
歩んできた冒険を
歌っているようにも
聞こえた。
お姫様は、
何も言わず
その歌に耳を傾けていた。
すると。
どこからともなく、
小さな光が
ひとつ。
またひとつ。
歌声に誘われるように、
淡い光が、
リースの周りに
集まり始めた。
その光からは、
どこか聞いたことのある
声が聞こえるようだった──。
英雄の歌い手 -fin-