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英雄の歌い手Ⅱ

10月16日
読了時間: 11分





そして――。



突然、

先頭の騎士が

地面を強く蹴った。


振り下ろされた剣を、

冒険者が

寸前のところで

受け止める。



ガキィン!!



鋭い金属音が

関所の中に響いた。



「くっ……!」


「こいつらおそらく、

 正気じゃねえ!」




別の騎士も

次々と襲いかかってくる。


冒険者たちは

襲いかかる騎士と

応戦を始めた。





しかし、

相手は王国の騎士たち。


剣を交えれば、

その技量の高さは

すぐにわかった。




一撃一撃が重く、

無駄がない。


しかも、

彼らはこちらの攻撃を

恐れる素振りさえ

見せなかった。




「こいつら……!」




騎士たちの剣技は

まさしく、

この街にきたときに見た、

彼ら自身が鍛錬によって

身につけた技術そのものだ。





そしてまた、

頭上から、

再び獣の咆哮が

鳴り響いた。



グォォォォォッ!!!



騎士たちの動きが

わずかに変わる。


先ほどまで

ばらばらに攻撃していた者たちが、

一斉に同じ方向へ

剣を向け始めた。



「……?」





リースは顔を上げた。


壁に張りついた

二頭の獅子型魔獣。




そのうちの一頭が、

口を大きく開き、

咆哮を続けている。


どうやら、

あの声に反応して

騎士たちが動いているらしい。




一頭…。


もう一頭が、

いない。




石壁の上。


先ほどまで

そこにいたはずの

獅子型魔獣が、


一頭、いない。



そして──。



「……っ!」



地上付近の

壁の側面から、

黒い影が飛び出した。


巨大な獅子が

石壁を蹴り、

冒険者たちの背後へ

飛びかかってくる。




その先にいたのは――。



アルドだった。





アルドは

とっさに身をひねり、

魔獣の前足をかわした。


鋭い爪が

すぐ横の石壁を

大きくえぐる。


しかし魔獣は、

着地するなり

再びアルドへ向き直った。






「おいおいおい……!」


「俺一人狙いかよ!」



地上で戦っている

騎士に

気を取られている間に


獅子型の魔獣が

アルドに迫っていた。


そして何より、

その魔獣の動き

一つ一つにより

空気が大きく揺れている。


騎士たちに

気を取られていなくても

自分たちが

勝てる保証などない。


それどころか

その魔獣に

触れただけで

身体が引き裂かれるような、


それを眺めるだけで

肉も骨も無事では

済まなくなった

自分の姿が

頭をよぎってしまう。






アルドは

転がるように

二度目の追撃から

身をかわし、

魔獣との距離を取る。


さらに襲いかかる前足を、

今度は近くの柱を利用して

やり過ごした。


巨体の割に、

恐ろしく素早い魔獣だった。


四本の足で

地面を蹴ったかと思えば、


次には

壁へ飛び移り、


そこから

まったく違う方向へ

跳びかかってくる。



「アルドさん!!」



「くそっ!

 しつこいな!」


「こいつ、

 俺がこの中で

 一番弱いとふんで

 襲いかかって

 きてやがるな!」



とにかく

その場には、とどまらず

走り回るアルドは

近くの瓦礫を飛び越えた。


しかし、

その着地を

待っていたかのように、

獅子が壁から飛び出してくる。



「……っ!」



避けきれなかった。


巨大な前足が、

アルドの肩を

横から打ちつけた。


鋭い爪が衣服を裂き、

その身体を

石柱へと叩きつける。



ドンッ!!



「ぐあっ……!」





アルドは

そのまま地面へ崩れ落ちた。



「アルドさん!!」



リースが駆け寄ろうとする。


しかし、

それを見た獅子は

再び壁を駆け上がり、

大きく口を開いた。



グォォォォォッ!!!



咆哮が響くと、

操られた騎士たちが

再び一斉に動き始めた。


リースの行く手に

何人もの騎士が

立ちはだかる。



「……!」


リースは

アルドと騎士たちを

交互に見た。


アルドは、

肩を押さえながらも

何とか身体を

起こそうとしている。



「……アルドさん!」



「構うな!!」



突然、

アルドが声を張り上げた。



「俺に構うな!」


「いけ!!」




リースは

思わず足を止めた。


アルドは

痛みに顔を歪めながらも、

上にいるもう一頭の

魔獣を指さした。





リースも

一度上にいる

魔獣へ視線を向け、


アルドに向かって

うなづき返す。





リースは

剣を握り直した。




そして

次の獅子の攻撃が

くる前に


冒険者の一人が

アルドの元へかけつけた。


そして

その横から、

冒険者の一人が

騎士の攻撃を受け止める。





「こっちは俺たちが

 何とかする!」


「おっさんの方も

 見ておく!」


「お前は

 上の獅子を

 止めてくれ!」


リースは

小さく頷いた。



石壁を見上げながら、


リースは

はじめに

声をかけてくれた

風の妖精の名前を呼ぶ



「……ネル。」





「うん!」

「いけるよ!」



妖精たちが

リースの元へ集まった。


そして、

リースの足元に

空気を圧縮したような

硬い足場を作る


その一歩先に、

淡い光の足場が

生まれる。


リースは

そこへ足をかけ、


さらに高く、

壁を駆け上がっていった。





*








リースは

妖精の作った

足場をもとに、

上へ上へと駆け上がりながら、

剣を振るった。


剣の刀身からは、

光の斬撃が放たれる。


しかし魔獣は、

壁を蹴って

別の場所へ飛び移り、

その攻撃をかわした。



「……速い」



リースは

もう一度魔獣を見た。


重そうな身体。


巨大な四肢。


しかし、

その動きには

巨体からは想像できないほど

無駄がなかった。


壁へ張りつき、

獅子もまた、

上へ上へと

駆け上がっている。




グルルルル……。



獅子は、

低い唸り声を上げた。




先ほどまでとは

少し様子が違う。



どうやら、

リースを無視して

咆哮を続けることは

難しくなったらしい。



下から聞こえていた、

剣を打ち合う音も

少し落ち着いてきた

ように感じる







リースは

獅子が咆哮をあげる

隙を与えないよう、

再び剣を振るった。


魔獣は

攻撃を避けながら、

さらに上へと移動する。



やがて二人は、

関所の最上層へ

たどり着いた。







*





最上層には、

広い石造りの床があった。


周囲には

いくつもの柱が立ち、

様々な

資材が置かれている。




この関所はおそらく

遠くからでも

位置がわかるよう、


高く積み上げられた

塔のような構造で、


吹き抜けのように

最上階の床までほとんど

足場のない作りだった。




その

最上階の外側は

山々を見渡せるように

開かれている。





しかし、

長い間

手入れがされていないのか、


床や柱には

ところどころ

大きな亀裂が走っていた。



リースが

最後の足場を蹴り、

その床へ降り立つ。


少し離れた場所では、

獅子型魔獣が

低く身を構えていた。



グルルルル……。




巨体でありながら

壁に張り付ける

強靭な四肢を持つとはいえ、


足場のない状態での

撃ち合いは

魔獣にとって、

不利とみなし、


足場のある

ここへ誘い込んだのだろう。




しかし

この場所では、

逃げる場所はもうない。


リースは

慎重に剣を構えた。







だが。



魔獣の様子が、

おかしかった。



それまで

四本の足で

地面を踏みしめていた獅子が、


ゆっくりと

前足を持ち上げ始めた。


そして――。



二本足で、

立ち上がった。







……。



リースは

その姿を見上げた。


四足で走っていたときも

十分に巨大だったが、


後ろ足だけで立つと、

その大きさは

さらに際立って見えた。


前足は、

まるで人間の腕のように

自由に動いている。





……そんなことも

できるんだ




リースが

小さくつぶやく。





魔獣は

片方の肩を後ろに

引き伸ばし、


そして、

伸び上がったところで、

一気に手から腕を

身体ごと振り下ろした。



ドゴォンッ!!!



リースは

とっさに右へ跳んだ。




先ほどまで

立っていた場所へ、


巨大な前足が

叩きつけられる。


そしてその

石造りの床が

砕け散り、

大穴が空いている。





「……っ!」



魔獣は

そのまま

止まらなかった。



右。


左。


再び右。


そして、また

身体を引き伸ばし、

叩きつけてくる。



まるで拳を振るうように、

巨大な前足を

次々と

逃げ回る

リースめがけて

打ち込んでくる。



剣を振るう隙がない。






ドンッ!!


ガァン!!


ドゴォンッ!!



獅子型の魔獣によって、


床が砕ける。


柱が折れる。


天井を支えていた石材が、

大きな音を立てて

崩れ落ちていく。



リースは

妖精たちの力を借りながら

何とか攻撃をかわしていた。



「右!」


「また右に飛んで!」

「そこに

 足場を作るから!」


「危ない!」



しかし、

避ける場所そのものが

次々と失われていく。


魔獣の攻撃を

一度かわすたびに、


足元の床が

砕け

地面は瓦礫によって、

塞がれていく。






さらに。


魔獣は

リースが距離を取ると、

また四足になり、壁を蹴り、

その巨体で迫ってくる。





逃げ場がない。


なんとか

距離を取り

剣を振るっても、


力のこもっていない

斬撃では、

魔獣の厚い身体に傷一つ

付けることが出来ない。




「……っ」




しかし、

剣を構え直す。




魔獣は

再び二本足で立ちあがり、

大きく腕を振り上げた。



先ほどの攻撃を受け、

目の前の獲物には

自身を脅かすほどの

力量はないと

確信したのだろう。


また次々と

攻撃を

しかけようとしている。




リースは

自分の足元の床を見た。


大きな亀裂が

広がっている。





……。



そして、

もう一度、

魔獣を見て、


これまでの

魔獣の動きを

思い出す。



身体を伸ばした時は

地面を叩き付けるよう

強靭な前足を振る。


そして、

その前足で床が

割れた時は、


すぐに、

もう片方の前足と、

その対角にある後ろ足で


その巨体を

支え、

最上階の床から

落ちないようにしている。


もちろん、

地面を割った方の腕に

重心が残ったままでは、


その腕に引っ張られ、

自分が床から

落ちてしまうからだ。




そして魔獣が、

前足を振り下ろした瞬間を

見計らって



妖精の風魔法を使って、



その

振り下ろされる

前足の速度をあげた。


威力があがった

前足は思い切り

地面をぶち抜いた。



そして、


リースは

大きくズレた

魔獣の体幹が戻る前に

後ろ足に向かって

剣をふるい、

風魔法で、


足払いをした。


すると、

魔獣は

自身で開けた

床の穴の方へ

倒れ込み、


穴が

さらに勢いよく

大きく広がった



その穴は、

魔獣の身体よりも

大きく広がり、



魔獣を支える

最上階の

床が抜けた。



そして

魔獣は─、



塔のように高い、

関所の最上階から転落した。




グォォォォォッ!!!



魔獣が

最後の咆哮を上げた。



その巨体は

崩れ落ちる石材とともに、


小さくなっていった。







*








ドォォォンッ!!!



関所の下層へ、

凄まじい衝撃音が響いた。


操られていた騎士たちが、

一斉に動きを止める。



カラン。



冒険者たちと

剣を打ち合わせていた

一人の騎士が、

剣を取り落とした。



「……?」


周囲を見渡す。


「ここは……?」


別の騎士も

頭を押さえながら、

ゆっくりと顔を上げた。



「俺たちは確か……」





冒険者たちは、

その騎士たちの様子を見て


異変に気がついた。


洗脳が、

解けた。





しかし。



グォォォォッ!!!



もう一頭の獅子が、

激しい咆哮を上げた。


関所の壁を蹴り、

冒険者たちへ

飛びかかってくる。




ここは、

地表近くであり、

リースが使った手は

使えない。








「……っ!」


冒険者の一人が

剣を構えた。


しかしその前へ、

王国の騎士が

踏み込んできた。



ガキィン!!



魔獣の爪を、

騎士の剣が受け止める。



「……事情は

 よくわからんが」


「どうやら、

 助けに来てくれたらしいな」



その騎士は

剣を構え直した。


そして、

周囲の仲間たちへ目を向ける。



「全員、戦えるか!」



「当然!」


「問題ありません!」



騎士は剣を振り抜き、

魔獣を後ろに後退させる。




そして、

その声に反応した

騎士たちは

次々と剣を構えた。


先ほどまで

冒険者たちへ向けられていた

その剣先が、


今度は

獅子型魔獣へと向けられる。



魔獣は

再び壁へ飛び移った。


しかし、

今度は違った。


壁を駆ける魔獣へ、

魔法を宿した矢が

次々と放たれる。


さらに、

その着地点には

王国の騎士たちが

すでに待ち構えていた。



魔獣が

前足を振り下ろす。


一人の騎士が受け止め、

その横から

別の騎士が斬り込む。


魔獣が

身をひねって逃れようとすると、


今度は

冒険者たちが

その退路を塞いだ。



騎士たちの剣技。


冒険者たちの連携。


そして、

妖精の力を宿した武器。



先ほどまで

圧倒的な脅威だった魔獣も、


それらすべてを相手に、

次第に動きを

封じられていった。



そして。



一人の騎士が

魔獣の攻撃を受け止めた。


その横を、

別の騎士が駆け抜ける。



振り抜かれた剣に、

光が宿り、

魔獣の身体を

深く斬り裂いた。



グォォォ……ッ!!



巨大な身体が

石畳の上へ倒れ込む。


やがて、

その輪郭が崩れ、


黒紫色の魔力となって

大気へと消えていった。





そして─、

関所に、

ようやく静けさが戻った。





*




戦いが終わったあと。


リースは

崩れた関所の最上層から

下へと戻ってきた。


身体のあちこちに

土埃がついている。


装備にも、

いくつもの傷が残っていた。



「あ……」


リースは、

負傷したアルドの姿を

見つけた。


近くでは

冒険者たちが

傷の手当てをしている。



「アルドさん!」


リースは

そちらへ駆け寄った。


「大丈夫ですか!?」


「あぁ……」


アルドは

肩を押さえながら、

顔を上げた。



「……ったく」


「とんでもねえ

 仕事だったな……」



いつものように

軽口を叩こうとしたのか。


しかし、

その声には

まだ痛みが混じっていた。


リースは

少し安心したように、

アルドのそばへしゃがみ込んだ。



その後ろでは、

正気を取り戻した騎士たちが、

倒れている仲間の手当てや

関所の被害を

確認していた。


冒険者たちもまた、

負傷者を支えながら、

ようやく剣を収め始めている。



アルドは

そんな光景を眺めた。


そして、

目の前にいる

自分の弟子を見る。



かつて、

騎士や冒険者の活躍を

目を輝かせて

聞いていた少年。


そんな少年を

英雄に仕立て上げようと

考えたのは、

ほかでもない自分だった。





しかし─。


今日の戦いは、

誰が仕組んだものでもなかった。



アルドは

しばらくリースを

見つめていた。



そして――。



「……リース」


誰に聞かせるでもなく、

小さくつぶやいた。



「お前……」


「本物の英雄みたいじゃねえか」













 
 
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