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英雄の歌い手Ⅰ

10月16日
読了時間: 30分



今より

二百年ほど前――。


礼節を何より重んじた

一人の騎士英雄がいた。


そして

彼が仕える

王のもとには、

幾度となく難題が

持ち込まれる。


魔物の討伐、

呪われた地への遠征、

二度と帰らぬと恐れられた

試練の旅。


誰もが恐れ、

尻込みするような

難題であっても、


王が一度命じれば、

その騎士は

当然のように旅に立つ。


そして――。


当然のように、

王のもとへと帰還する。


その後、

その英雄は、

仲間の裏切りによって

身を焦がすことになるのだが、


その者の王への忠誠は、

最期の時まで

揺らぐことがなかったという。


自らの命が尽きる、

その瞬間まで。


彼はただひとつ。


王を生かすための

騎士であり続けた。



*






「すごい!」


草むらに

身を潜めていたリースは、

思わず声を漏らした。


その視線の先では、

揃いの磨き上げられた

甲冑を身につけた騎士たちが、

剣を振るい、


影でできた

狼のような魔物たちを

次々と討ち取っていた。



「前の国の冒険者たちも、

 あの息の合った連携には

 驚かされたけど……」


「この国の騎士たちは、

 一人ひとりの剣技の腕が

 桁違いだ!」


「お城では、

 いったいどんな訓練が

 されているんだろう?」


「そういえば、

 この国にも

 ギルドがあったな。

 冒険者たちは、

 どれほどの腕前なんだろう!?」


次々と疑問が湧き、

独り言が止まらない。


新たな旅先で目にした

騎士たちの勇姿に、

吟遊詩人見習いのリースは、

すっかり夢中になっていた。



「あぶない、あぶない。

 ちゃんとメモを取って、

 今見た景色を

 アルドさんに伝えないと」


興奮も冷めないまま、

リースは鞄から

小さな蝋板を

取り出そうとした。


※蝋板:

中世などでよく使われていた

ロウで出来たメモ帳。

ロウを削るように書くだけなので

表面をまた平らにすることで

何度も書き直すことができる。



ところが、

そのとき。


リースは、

初めて気がついた。


リースのすぐ真横に、

自分と同じように

草むらに身を潜めている


小柄な、

フードを深く被った

人物がいる。



「魔狼ね!」


突然、

その人物が口を開いた。


「この街道沿いの森に

 よく現れる魔物で、

 行商人の荷車を群れで襲って、

 食料を奪い去っていく魔物よ!」


「さっきも酒場で、

 魔狼に襲われて

 足をくじいたって、

 おじいさんが嘆いていたけれど……」


「この群れの仕業だったのかしら」


その声や、

フードから

わずかに覗く髪から、

どうやら女性らしいことが

わかった。


リースと同じく

騎士たちの戦いを眺めながら、

その少女は

嬉々として話を続けている。



「あなたはだあれ?

 新聞記者さんか何かかしら?」


「兵士や冒険者様に

 お詳しいようだけれど」


リースは、

突然現れた少女を

どう扱えばよいのかわからず、

返答に迷った。


しかし、

少女はそんなことを

気にする様子もなく、

さらに問いかけてきた。



「ねえ、あなた。

 魔物がどうして現れるか、

 知っている?」


リースが

答えようか迷っているうちに、

少女は自分で

続きを話し始めた。



「魔物たちはね、

 魔力が充満した場所に

 現れるの」


「でも、

 人が近くにいれば

 魔力は人に吸収されて、

 周囲の魔力の濃度が薄くなるから、

 魔物は現れにくくなる」


「つまり、

 人がいないところに

 魔物が出現するってわけ!」


少女はそう言い終えると、

騎士たちから目を離さないまま、

どこか得意げに

手のひらをくるりと差し出した。



「そ、それくらい

 知ってますよ!」


「この世界の常識じゃないですか」


「ふーん。

 やっぱり、

 あなた詳しいのね」


少女は少し間を置いて答えた。


フードに隠れて

表情はよく見えなかったが、

その口元は、

どこか楽しそうに

緩んでいるように見えた。



「あなた、さっき、

 うちの兵士たちを見て

 興奮してらっしゃったけど、

 そんなに騎士が好きなの?」


少女は

戦う騎士たちから

視線を外さないまま、

顔だけをリースへ向けた。


リースは、

フードの奥を覗いてもよいものか

少し迷った。


それでも、

恐る恐る横目で

その表情を確かめてみる。


すると、

思いのほか整った、

美しい顔立ちが目に入った。


立ち居振る舞いこそ

自由気ままだが、

その顔には

不思議なほどの気品があった。



「す……好きですけど……」


「じゃあ、

 兵士に志願するとか、

 ギルドで冒険者になるとか、

 そういったことはしないのかしら?」


「見たところ、

 武器一本すら

 持ち合わせていないようだけれど」


「武器も持たずに、

 草むらに隠れて

 こそこそと、

 お目々をきらきらさせて……

 ふふふ」


どうやら、

少しから

かわれているらしく

挑発的だ。

リースは慌てて弁明した。



「ち、違うんです!」


「ボクは、

 師匠の……アルドさんの

 詩(うた)づくりの

 力になりたくて、

 ここにいるんです!」


「ボクは、

 ミンストレル……

 吟遊詩人である

 アルドさんの詩を聞いて、

 その詩に救われて、

 ここにいるんです」


「だからボクも、

 アルドさんのように詩を作り、

 音楽を奏で、

 人に生きる希望を

 与えられるような……」


「英雄譚の語り部、

 ミンストレルになりたくて……」


もごもごと

しはじめたリースの心情には

構わず、

その言葉に

飛びつくように少女は

反応を返す。



「あら!

 そうなの!?

 素敵!!」


「あなた、

 吟遊詩人さんなの!?」



その言葉を聞いた途端、

少女の様子が一変した。


それまで夢中で

騎士たちを眺めていた彼女が、

初めてリースの方へ

身体ごと顔ごと

こちらへ向き直ったのだ。


そして、

その手を両手で握ってくる。



「い、いえ、ボクはまだ……」


「聞かせて、聞かせて!」


「どんな詩が歌えるの?

 私の知らない英雄譚は

 あるかしら!?」


先ほどまでの

騎士たちへの熱中ぶりが、

今度はそのまま

リースへ向けられている。


リースが

どう答えようか考えていた、

そのときだった。



「……姫様?」


魔物を討伐し終えた

騎士の一人が、

こちらを振り返った。


「姫様の声だ」

「間違いない!」


その騎士の反応を見て

少女が小さく声を漏らす。


「あ」



「またそのような、

 浮浪者のような格好をして……!」


騎士たちが、

こちらへ大股で歩いてくる。


それを見るなり、

少女は勢いよく立ち上がった。



「お城で待ってる!」


「あとで、

 あなたの詩を聞かせてね!!」


そう言い残し、

少女は走り去っていった。


その拍子に、

深く被っていたフードが

ずれ落ちる。


中から現れたのは、

鮮やかな青い髪だった。


リースは、

その後ろ姿を

しばらく見つめていた。


――姫様?


そう呼ばれていたような

気がする。



「君は?」


駆け寄ってきた

騎士の一人が尋ねた。


「ぼ、ボクは

 旅の詩人見習いでして……」


「それで、

 皆さんの活躍を

 歌にできないかと!」


「か、彼女は

 突然隣に来たんです!

 ボクは何も……!」


状況を遅れて把握した

リースは

思い出したかのように

無実を主張しようとする。



「あはは、

 気にしなくていい」


騎士は笑った。


「姫様のあれは、

 いつものことだ」




*



「はぁ……よかった」


街道から

城下町へ戻る道すがら、

リースはようやく

胸を撫で下ろした。


「この国の騎士様は、

 話の通じる方たちで……」


「お姫様を誘拐した

 賊だとでも思われたら、

 どうしようかと思った……」


「それにしても、

 まさかお姫様だったなんて……」


思い返してみれば、

確かに少し

不思議なところはあった。


「そういえば、

 騎士様たちのことを

 『うちの兵士たち』って

 言ってたな……」


あの口ぶり。


身にまとっていた、

どことなく上品な雰囲気。


なるほど、

そういうことだったのか。




リースは

この国のお姫様に対して

思うことはあれど、


とりあえず

自身の吟遊詩人の師匠である

アルドとの

待ち合わせの場所を

思い出すことにした。



「確か、

 アルドさんは

 この先の酒場で待ってるって

 言ってたけど……」


日が傾き始めた街を、

とぼとぼと歩いていく。


すると、

冒険者ギルドの前で

何やら言い争っている

一団を見つけた。


どうやら、

冒険者のパーティらしい。


そこでリースは、

師匠アルドから

教わったことを思い出した。


街で喧嘩を見かけたら、

必ず見学して報告すること。


以前、

それも歌にするのかと

尋ねたことがある。


するとアルドは、

こう答えた。


「面白いからだ!」


それだけだった。


おそらく、

アルドは喧嘩の話を

歌にする気などない。


ただ、

人の痴話喧嘩や揉め事を

聞くことが好きなだけなのだろう。


「……悪趣味」


小さくつぶやいた。


しかし、

言いつけは言いつけである。


リースは

少し離れたところに

立ち止まると、

暮れ始めた空でも眺めながら、

こっそり聞き耳を立てることにした。



そのときだった。


口論の最中、

一人の魔法使いが、

仲間に押し出されるように

よろめいた。


そして、

ちょうど後ろに立っていた

リースへぶつかってくる。


「……っ!」




不意をつかれたリースは

踏ん張ることもできず、

そのまま地面へ倒れ込んだ。


魔法使いの女性も

一緒に転び、

リースは彼女の

下敷きになってしまった。


しかし、

当の魔法使いは、

そのことにかまわず、


リースの上に

座り込んだまま、

口論を続けていた。



「前でしっかり、

 魔物を押さえてもらわないと!」


「魔物が、

 ちらちらちらちら、

 後ろにいる私のところまで

 抜けてきちゃってたら、

 集中できないじゃない!」


「集中していないと、

 魔法なんて撃てないんだから!」


どうやら

魔物の群れを相手に

前衛が

抑え込めなかったようだ。


「それで出来たのが、

 あのマッチ棒みたいな火かい!」


「あれならその辺で

 マッチでも買ってきて、

 そのまま投げつけた方が

 ましだね!」


それだけ言い放つと、

冒険者たちは

魔法使いを置いて

歩き去ってしまった。


残された魔法使いは、

悔しそうに拳を握る。



「くっそー……!」


「お前らがちゃんと

 前さえ張っていれば……!」


「今

 目の前で

 私の魔法を見せてやろうか…!」



「す……すみません…」


「あっ!

 ごめんごめん!」


ようやく自分が

リースの上に

座っていることに

気がついたらしい。


魔法使いは

慌てて腰を浮かせた。


「大丈夫?

 ケガはない?」


「だ、大丈夫です!」


リースは起き上がり、

衣服についた土を払った。


そして、

少し考えてから尋ねた。


「そ、それより……

 魔法使いさんのお話を、

 詳しく聞かせて

 もらえませんか?」


「えっ?」


魔法使いは

不思議そうにリースを見た。



*


リースは、

自分がミンストレルの

見習いであること、


師匠の詩づくりに

役立てるため、


各地の英雄や冒険者たちの

活躍を集めていることを

説明した。



そして──。

魔法使いも、

自分のことを話してくれた。


名前はエルム。


各地を旅しながら、

魔法の腕を磨いているという。


彼女は以前、

魔物の大群を

たった一度の魔法で

焼き払ったことがあるらしい。


そのときは、

仲間の冒険者たちが

前に立って魔物を押さえ、


エルムが大魔法を

完成させるための時間を

稼いでくれたのだという。



「すごい……!」


「ちゃんと詠唱に

 集中さえできたら、

 そんな数の魔物を一撃で……!」


リースは話を聞きながら、

先ほどの蝋板を取り出し、

せっせとメモを書き込んでいた。


その魔法が

どれほど強力だったのか。


どんな冒険者たちと

旅をしていたのか。


エルムは

楽しそうに話してくれた。


だからリースも、

つい尋ねてしまった。



「でも、

 そのときの

 お仲間さんたちは?」


「すごく

 仲が良さそうだったのに……」


先ほどまで、

あんなに楽しそうに

話していたエルムは、

その問いには

すぐに答えなかった。


その問いの最中、

一点を見つめていた

エルムは

一度、

ゆっくりと目を閉じる。


リース自身、

口にしている途中で

気がついてしまった。


そして、

蝋板に走らせていた

尖筆を止めた。


少し考えれば、

わかったかもしれないのに。


エルムがあまりにも

話しやすい女性だったため、

つい、

深く考えずに尋ねてしまった。




「死んだわ」


「その魔物の群れを

 止めようとして」


「私が魔法で

 倒してくれることを信じて」


「私が、

 その群れを焼き払ったときには、

 もう……」


その声は、

驚くほど静かだった。



そして、

彼女自身の口から、

そんな悲しい話を

させてしまった。


リースは

蝋板へ目を落とした。


「そうですか……」


それ以上、

何と言えばよいのか

わからなかった。






「それよりも、あなた!」

「あなたよ!あなた!」


突然、

エルムが明るい声を上げた。


どうやら、

こうした重苦しい空気は

あまり好きではないらしい。


先ほどまでの沈黙を

振り払うように、

エルムは話題を変えた。



「ずっと気になってたけど、

 あなた、

 すごく精霊に

 愛されているわね!」


「こんなに精霊が、

 自分の意思で集まっている人、

 初めて見たわ!」


「!?」


リースは少し驚いた。


魔法使いに会うのは

初めてではなかったが、

そんなことを言われたのは

初めてだった。



「そ、そうなんですか!?」



「やっぱり、

 気がついていなかったのね」


「魔法が使える人なら、

 すぐに気がつくと思うけれど……

 今まで教えてくれた人は

 いなかったの?」


確かに、

気がついていた人は

いたのかもしれない。


しかし、

こうして魔法使いと

腰を据えて話をする機会は、

これまでほとんどなかった。


それにしても、

精霊に愛されているとは、

どういうことなのだろう。


リースが考えていると、

エルムがふと思いついたように

言った。



「その肩布を貸して?」


「いいことしてあげる!」


「……?」


リースは言われるがまま、

肩に掛けていた

少し大きめの布を外し、

エルムに手渡した。


何の変哲もない、

旅の間ずっと

身につけていた肩布だ。


エルムはそれを受け取ると、

両手でそっと広げた。


そして、

魔法を唱え始めた。



「風に遊び、星に眠る

 小さき隣人たちよ。

 糸を道とし、

 布を宿とし、

 この者の声を、そなたらへ。

 そなたらの声を、この者へ。

 手を貸すも、背を向けるも、

 そなたらの心のままに。

 我は命じず、ただ縁を結ぶ。

 ――精霊の加護よ、ここに宿れ」



リースは、

その詠唱に思わず

聞き入っていた。


これまで戦場で

耳にしてきた魔法の詠唱は、

もっと力強く、

鋭いものだった。


炎を呼び、

雷を落とし、

魔物を打ち倒す。


まるで武器を振るうように、

言葉そのものへ

力を込める魔法使いたち。


しかし、

エルムの詠唱は違っていた。


声を張り上げることもなく、

一つひとつの言葉を、

誰かに優しく語りかけるように

紡いでいく。


その声には、

不思議な温かさがあった。


まるで、

親しい友人へ

語りかけるような。


あるいは、

幼い子どもに

歌を聴かせるような。


その穏やかな声音に

呼応するかのように、

エルムの手にした肩布が

淡く輝き始めた。


そして

布の織り目を、

無数の小さな光が

走っていく。


細い糸をたどりながら、

ひとつ、

またひとつと光が結ばれ、

夜空に瞬く星々のような

模様を描いていく。


やがて、

その光は肩布全体を

優しく包み込んだ。


リースは、

ただその光景を見つめていた。


魔法というものが、

こんなにも優しい響きを

持っていることを、

彼は今まで知らなかった。



「ふふっ。

 魔法を見るのは初めて?」


「い、いえ!」


「でも

 ボクの知っている魔法とは、

 全然違うと思って……」


「いつも聞いている、

 武器のような言葉ではなくて……

 とても綺麗な歌のようで」


「あら、

 嬉しいこと

 言ってくれるじゃない!」


「ありがとう!」


エルムは楽しそうに笑った。



「ちなみに、

 魔法の詠唱って、

 決められた言葉なんてものは

 ないのよ?」


「本に載っている言葉を、

 そのまま唱えてもいいけど」


「自分の願いを

 世界に届けるために、

 今、思っていることを

 素直に伝えるだけでいいの」


「それだけでいいのよ」



「なるほど…」

「それは、

 歌と似ていますね……」


師匠も同じような事を

言っていた。


整った言葉よりも、

何を伝えたいのか、

言葉よりも伝えたい

気持ちの方が大切だと。



そのときだった。


肩布から発せられていた光が、

ゆっくりと収まっていく。


そして。


「リース! リース!」


「おーい! 聞こえる!?」


どこからか、

声が聞こえた。


聞き覚えがあるような。


それでいて、

今まで一度も聞いたことが

ないような、


不思議な声。

不思議な感覚。


「……?」


リースは一度、

瞬きをした。


すると、

目の前に小さな何かが

浮かんでいた。


一人。


二人。


三人。


透き通った羽を持つ、

小さな妖精たち。


三人……と

数えていいのだろうか。


それとも三匹?


そんなことを考えていると、


「あっ、気がついた!」


妖精の一人が、

嬉しそうに声を上げた。




*


翌朝。



「おーい」


「おおおおーい」


「リースー!」


「……あっ!」


「す、すみません!」



今、名前を呼んだのは、

リースの頭にあった

小さくとも必死にこちらを

呼ぶような

可愛らしい声とは違い、


普通に

野太いおっさんの声だ。



「どうしたー?

 昨日からお前、

 ちょっと変だぞ?」


「いつも冒険者や兵士の

 偵察に行くと、

 おおはしゃぎで俺に

 報告しに来るってのによ」


「昨日も、

 ぼーっと

 心ここにあらずって感じで

 報告しやがってよぉ」


「そんな心の籠もってない

 感じで生きてっと

 誰も感動させられなくなるぞ?」


「すみません……」


師匠のアルドは、

荒っぽい言葉遣いながらも、

どこか

リースのことを

心配しているようだった。


しかし

そのリースは、

まだ昨日の出来事を

うまく飲み込めずにいた。


夢だったのではないか。


そう考えてしまいそうな

出来事だった。


しかし、

今も目の前には、

あの小さな妖精たちが

ハエのように

リースの周りを飛んでいる。



「あはは! 怒られたー!」


「アルドさん、お酒くさーい!」


「それはいつものこと」


「くさい、くさーい!」


「リースも

 何か言い返してやれー!」


「あはははは!」


どうやら、

妖精たちはとても楽しそうだ。


しかし

アルドには、

その声も姿も

わからないらしい。


それを良いことに

妖精たちは

アルドに対して

言いたい放題である。


いつも

自分の知らない所で

このような会話が

されていたのだろうか…。




リースは妖精たちを見て、

それから師匠へと目を戻した。


どこから説明すれば

いいのだろう。


昨日あったことを

順番に話そうか。


それとも、

先に見てもらった方が

早いだろうか。


少し考えてから、

リースは口を開いた。



「アルドさん」


「ボク、

 魔法が使えるように

 なったかもしれません」


「……あぁ?」







*






そして二人は、

昨日、騎士たちが

魔物を討伐していた

街道沿いの森へと

入っていった。


アルドは、

リースに言われるがまま

後をついてきたものの、

まだ何が起こるのか

わかっていない様子だった。


やがて、

森の中に魔物の姿を見つける。


するとリースは、

何やらぶつぶつと

独り言をつぶやき始めた。


そして、

魔物へ向かって

手のひらを伸ばす。



次の瞬間。


見えない何かに

突き飛ばされたように、

魔物の身体が宙を舞った。


そのまま木の幹へ

叩きつけられる。


衝撃を受けた魔物は、

輪郭を失い、

黒い影が

蒸発するかのように

崩れていった。


やがてその身体は、

大気に漂う魔力へと

還っていく。



「……へあ?」


アルドは、

しばらくその光景を

見つめていた。


「今の、

 お前がやったのか?」


「……すごい…」


「いや、リース。

 お前が驚いて

 どうするんだよ!」


「昨日、何があった!?

 教えろ!」



リースも、

魔物が消えた場所を

じっと見ていた。


昨日、

会った魔法使いや、

妖精たちから聞いた話。


それが本当だったのだと、

今ようやく

実感が湧いてきた。




「は、はい!」



「昨日、

 旅の魔法使いの

 エルムという方に……」


リースは、

前日にうまく報告できなかった

出来事を、

改めて最初から話し始めた。


魔法使いの女性と

出会ったこと。


彼女に肩布を渡したこと。


その肩布に

精霊の加護を

授けてもらったこと。


そして、

今まで見えなかった

妖精たちが、

見えるようになったこと。


大きな切り株に腰を下ろし

話を聞いていたアルドは、


顎に手を添えながら答えた。


「なるほど……」


「お前さんには、

 確かに光るものがありそうだと

 感じてはいたが……」


「なるほど。

 精霊に好かれる

 体質だったとはな」



しばらく地面を見つめている。


何かを考えているらしい。


やがて、

ゆっくりと顔を上げた。


そして――。


妙に楽しそうな顔で、

リースを見た。


嫌な予感がする。


「お前、

 英雄にならないか?」




*






「お前、

 英雄にならないか?」


その日から、

リースの生活は

大きく変わった。


魔物に襲われる

冒険者や騎士たち。


その危機に、

精霊の力を借りたリースが

駆けつけ、

魔法で魔物を討伐する。


そして、

その活躍を

師匠アルドが歌にする。


そんな出来事が、

何度も繰り返されるようになり


街の人々は

ギルドをはじめ、城の騎士たちも

リースを噂するようになっていた。




しかし――。


これには、

人には言えない秘密があった。


リースとアルドは、

精霊たちの姿が

ほかの人々には

どの程度見えているのか、

何度か確かめ─。


その結果、

ほとんどの人間には

妖精たちの姿が見えず、


見えたとしても、

うっすらと光が浮かんでいる

程度らしいことがわかった。





そこでアルドは、

その性質を利用することを

思いついた。



妖精たちに

魔物の注意を引かせ、

近くにいる冒険者たちを

襲わせる。


そして、

冒険者たちが

窮地に陥ったところへ

リースが

颯爽(さっそう)と現れ、

魔物を討伐するのだ。



この計画を考えたのは

アルドだったが、

妖精たちも

楽しそうと、

随分と乗り気である。



妖精たちも、


冒険者たちが

慌てて逃げ回る姿や、

そこへリースが現れて

魔物を

討伐する様子を見るのが、

よほど面白いらしい。


妖精たちは嬉々として、

アルドの企みに

協力していた。





リースは、

以前エルムから言われた

言葉を思い出した。



『あなた、

 すごく精霊に

 愛されているわね!』


精霊とはおそらく

この妖精たちのことだろう


しかし

どうやら自分は、

ろくでもない人たちに

好かれやすいらしい。


師匠も妖精たちも、

自分たちで騒ぎを起こし、

自分たちで解決し、

それを歌にして広めることに、

何の疑問も感じていないようだった。


それどころか、

実に楽しそうである。





しかし、

そんなことを繰り返しているうちに、

リースの名は

少しずつ広まっていった。





アルドの

ミンストレルとしての腕前も

あってか、

その噂は瞬く間に

街中へと伝わっていく。


やがてリースのもとには、

本物の魔物討伐や

護衛の依頼が

舞い込むようになった。


そして、

リースの周りに集まる

妖精たちの力は、

それまでのバカバカしい

やり取りからは

想像ができないほど、

凄まじかった。





魔物の気配を察知し、

危険を知らせる。


大気中の空気を操り、

何もない空中に足場を作って、


普通の剣士では

到底届かない場所

到底できない動きで、

リースを運ぶ。


さらに、

剣を振るえば

魔法の力が放たれ、

巨大な魔物さえ

討ち取ってしまう。





リースは

妖精たちの助けを借りながら、

次々と難題を

踏破していった。




そして

人々から感謝され、

名を知られ、

そしてアルドが

新たな武勲(ぶくん)を

歌にする。




かつては、

騎士や冒険者たちの活躍を

草むらから

見学していた少年が、


今では、

自分の活躍を

歌われるように

なっている。


そして

リースは

アルドに言われるがまま、


剣や鎧など、

騎士としての装備を

少しずつ整え始めた。


以前と

変わらないものといえば、

肩に掛けている、


あの

精霊の宿となった

古い布くらいだった。



そして、

ついに。


リースはアルドとともに、

王城へ招かれることとなった。







*






二人を呼び出したのは、

この国の国王。

国王、直々の呼び出しである。


王は、

リースに一つの依頼を

したいのだという。


どうやら、

国の北部にある関所から、

連絡が途絶えてしまったらしい。


その関所は、

北方に住む山の民や、

さらにその先にある港町との

交易のために設けられた

重要な拠点とのこと。


しかし、

近頃は周辺に魔物が増え、

行き来することさえ

難しくなっているという。


王国はすでに騎士団を派遣し、

現地の調査に

当たらせていた。





ところが――。


現地から伝令として

戻ってきた

兵士が一人いるだけで、


ほかの騎士たちは、

いまだ誰一人として

帰還していないらしい。


伝令兵の報告によれば、

関所の周辺には、

予想をはるかに

上回る数の魔物が

発生しているという。


そんな中、

数々の魔物を討伐し、

ミンストレルによって

武勲まで歌われ始めている


少年の噂が、

王の耳にも届いた。


そして今回、

リースが王城へ

呼び出されたというわけである。





「本当にすごい魔物の量だ……」



リースは、

森の街道を抜け、

山道に差し掛かった

ところにある、


大きな岩陰から

遠くに見える関所を

眺めていた。


その周囲には、

黒紫色の

影のような魔物が

ひしめき合っている。





「一、二、三、四……」


数え始めてみる。


二十は余裕で超えている。


三十。


いや、

四十近くいるかもしれない。






それも、

見えている範囲だけでだ。


リースは途中で

数えるのを諦めた。



「関所に、

 魔物の王でも

 おわすのかねぇ…」



リースに同行していた

吟遊詩人アルドも、


その異様な光景に

半ば呆れたように声を

漏らす。


冗談めかした口調にも、

隠しきれない驚きが

滲んでいた。




もちろん、

リースに

同行しているのは、

アルドだけではない。





「……少なくとも、

 俺たちを歓迎するための

 歓迎パーティを

 開いてくれている

 わけでは、

 なさそうだ。」


「ああ…」



隣にいた

冒険者がつぶやく。



王命を受けたリースには、

アルドと、

他にも八人の

冒険者が同行していた。



いずれも

この国のギルドから

派遣された、

経験豊富な者たちである。




「これから起こる出来事は

 俺たちの

 歓迎パーティ自体には

 なりそうだけどな…!」



アルドが

いつもの軽口で

それに答える。




「しっかし、

 騎士団が

 帰ってこないとは聞いていたが、

 こりゃ

 想像以上だな」



魔物たちは

街道の上だけでなく、


岩壁の隙間や

木々の枝先にまで

姿を見せていた。


中には、

獣とも虫ともつかない

奇妙な姿をしたものもいる。




「関所の周りだけじゃねえ。

 山道はもちろん、

 山肌にも、崖上にも

 びっしりいやがる」




「……こりゃあ、

 良い曲が作れたとして

 街まで持って

 帰れるもんなのかねぇ」


アルドが

関所を眺めながら

つぶやいた。



そのときだった。


「……リース」


妖精の声がした。


はじめは

三人だった妖精たちも

いつのまにか、

8人まで増えていた。


それらが

いつも

賑やかに

飛び回っている、


しかし今日は、

身を寄せ合い、

珍しく

静かになっている。






リースも、

もう一度周囲を見渡した。


確かに、

この数の魔物を相手に

正面から戦うのは

難しそうだった。





しかし――。


すでに魔物たちは、

こちらの存在に

気づいていたらしい。



グルルルル……。



自分たちが歩いてきた

森の街道から

狼型の魔物の

唸り声(うなりごえ)が

聞こえた



さらに

リースたちが隠れる

岩壁の上から、

何かが動く音がした。





「……来るぞ」


冒険者の一人が

剣を抜いた。


その瞬間─。






岩の崖上から、

何頭もの魔物が

飛び出し、

一行の進路を塞いだ。



しかしそれに

臆することなく、


先頭にいた冒険者が

素早く踏み込み、

飛びかかってきた魔物を

剣で斬り伏せる。


後方も

すでに

盾を構えた冒険者が

立ち位置を確保している。



そして

その後ろでは、

弓を構えた者が

矢を放ちはじめる。




リースも

剣を鞘から抜いた。


しかし、

彼が剣を振るうよりも早く、

別の冒険者が

横から魔物を討ち取った。


「……すごい」





思わず、

小さく声が漏れた。


やはり、

集められた冒険者たちも

相当な実力者らしい。




だが。


魔物の数は

一向に減らなかった。


一頭を倒せば、

その奥から二頭。


二頭を倒せば、

今度は岩壁の上から

新たな魔物が現れる。






「……っ」


一人の冒険者が、

魔物の爪を剣で受け止めた。


その横から、

別の魔物が飛びかかる。





しかし、

近くの槍使いが

すぐに割って入り、

その魔物を突き飛ばした。


互いの隙を補い、

死角を守り合う。


それぞれが

何度も修羅場を

くぐり抜けてきたことが

わかる戦い方だった。






「リース!」

「これ、やばいよ!」


妖精たちが

慌てて飛び回り始めた。


「リース!」

「後ろの森の中も

 魔物が

 いっぱい

 集まってきてる!」


「中には

 おっきな魔物も

 何匹か混ざってるよ!」



いつも

人間たちをからかい、

人間たちが

慌てている姿を

面白がっている

妖精たちも


今はみな、

近くの冒険者たちのことを

心配している。




「使ってください!」



リースは、

他の冒険者たちに

向かって声を投げかける。



そして、



「あの人たちにも、

 精霊の力を

 貸してもらえる?」



「わかった!」


「やるやる!」


「やっちゃおー!」



近くにいた

妖精たちにも

声をかけ、



三人の妖精が、

リースのもとから

勢いよく離れる。



そして、

妖精たちは、


二人の剣士と

一人の弓使いが持つ

武器の中へと

吸い込まれていった。







剣と弓が、

淡い光を帯び始める。



「……?」






剣士の一人が、

自分の剣を見下ろす。



だが、

その光を確かめている

暇はなかった。



正面から、

新たな魔物が

飛びかかってくる。




剣士は反射的に

剣を振るった。


すると――。


剣から放たれた

光の斬撃が、

魔物を真っ二つに

切り裂いた。





「……今のは…?」


剣士は一瞬、

自分の剣を見つめた。






しかし、

すぐに次の魔物へ

視線を戻した。


もう一度、

剣を振るう。


今度は、

剣の軌道に沿って

魔法の刃が走り、


その刃は、

魔物を半分に

引き裂いたまま、

しばらく

空を直進した。


「……なるほど」



その剣士は、

少し楽しそうに

笑った。




もう一人の剣士も、

すぐに使い方を

理解したらしい。


剣に宿った

魔法の力を利用し、

次々と

魔物を斬り伏せていく。





そして、

中央で弓を構える

弓使いもまた、

光を帯びた矢を放っていた。



その矢は

放たれた瞬間、

三本に分かれ、


中央の本体の矢の他、

二本は

周囲の魔物に

追従するかのように

魔物に突き刺さる。



さらに、

それまでなら

矢を弾いていた

硬い外殻を持つ魔物でさえ、


その魔法を宿した矢は

容易に貫いていく。





「すごい……!」



「これなら行けるかも…」



思わずつぶやく

冒険者たち。





彼らは、

新たに得た力を

あっという間に

使いこなし、


自分たちが持っていた

剣術や弓術の技量を、

さらに高めているようだった。


リースも

剣を握り直す。






*





「……っ!」




しかし

突然、

後方から悲鳴が上がった。


振り返ると、

冒険者の一人が

地面に膝をついていた。


肩から

血が流れている。








近くにいた仲間が

すぐに

魔物を斬り払い、

負傷した男を支えた。



しかし、

その隙を狙うように

新たな魔物が

飛びかかってくる。


「後ろ!」




妖精の声に反応し、

リースが剣を向けた。


放たれた魔法が、

二人へ迫る魔物を

吹き飛ばす。







だが、

別の場所からも

悲鳴が聞こえてきた。


一人。


また一人。




魔物との戦いで、

冒険者たちが

負傷していく。






それでも

彼らの剣は止まらなかった。


傷を負った仲間を

背後へ下がらせ、


動ける者が

その前へ出る。


誰かが魔物を防ぎ、

誰かが仲間を支え、

誰かがその隙を埋める。






しかし。


一行が進む速度を

上回る勢いで、


魔物たちが

次々と集まってくる。





「……まずいな」


妖精の力を使いこなし、

道を切り開いていた、

冒険者の一人が

来た道を振り返った。




リースも

そちらへ目を向ける。



そこには、

負傷した冒険者たちが

庇いあい、

必死に防衛している姿と

魔物の群れがいた。





つい先ほどまで

自分たちが

歩いてきた道。


その道が、

今では魔物たちに

埋め尽くされている。






関所への道は

なんとか

切り開いているものの、


後方の戦況が

あまりにも悪い。


一行は、

背後から

魔物に追い立てられ、

急いで

前に進むしかない状態だ





「リース!」


「こっちも、

 もう限界だよ!」




妖精たちも

必死になっていた。


あちこちに飛び回り、

武器に宿るだけでなく

自らの魔法も使って、


傷ついた

冒険者たちを

助けながら

危険を知らせる。





魔物の数は減らない。


むしろ、

さらに集まってきている

ようにさえ見えた。







そのとき。



「……関所だ!」


前方にいた冒険者が

声を上げた。




山道の向こう、

少し先に

巨大な石造りの門が見える。


おそらくあれが

関所の入口だろう


そして、

よく見ると


その関所の中には

魔物が

まだ侵入していないように

見える。


それどころか、

捜していた

王国の騎士のような

人影が見える。






冒険者たちは

目を見合わせた。




そして、

残っていた力を振り絞り、

再び剣を構えた。


「……行くぞ」


短い言葉だった。


だが、

ほかの冒険者たちも

迷うことなく頷いた。


リースも

彼らとともに

剣に妖精の力を宿し、

前方の魔物の群れへ

切り込んでいく、



冒険者たちは、

目的地である

北の関所へ

逃げ込むように

向かった。







*





「ひゅー。やるぅー。」

今まで、黙って

冒険者たちの活躍を

命がけで見守っていた

アルドが

ようやく安心したのか

息を漏らす。




そして

関所付近で

待ち伏せていた

最後の魔物を

斬り伏せた冒険者が、

急いで門をくぐり、


関所の壁に

背中を預ける。


それまで

ずっと

気を張っていたのだろう。


関所の門までの

わずか数歩の足取りは

気が抜け、

足を引きずるようだった。



「はぁ……はぁ……」


全員、

ひどく疲弊していた。


負傷した者たちは、

仲間に肩を貸され、

かろうじて立っている。







リースも

呼吸を整えながら、

関所を見上げた。


石壁には

無数の傷が残り、

建物の一部は

大きく崩れている。




関所の門と高い壁によって

やすやすと魔物たちは

入ってこれない

状態ではあるものの、




関所の内側に



折れた槍。


砕けた盾。


破れた王国の旗。


それらが

無造作に置かれている。




どうやら、

ここでも

相当な戦いが

あったらしい。






なんとか関所の

門の内側に入ることができ、

休んでいる

冒険者たちを他所に、



少し離れたところで、

アルドは、腕を組み、

壁に背中を預けながら

一直線に

門の外を見ている





「……?」


リースが振り返る。




アルドは、

先ほどまで

自分たちが戦っていた

山道を眺めていた。





「……どうしました?」



リースは、アルドに

尋ねてみる。


吟遊詩人の

師であるアルドとは

長い間、

共に旅をしてきた。



何かを

違和感を感じ、

警戒している様子なのは

すぐにわかった。



そして

アルドは、

周囲を見渡しながら

答える。




「いやな。」


「帰り道は

 どうすっかって

 話もそうだが」


「さっきまで

 あれだけ

 俺たちを

 追っかけまわしていた

 魔物どもがよ」


「急に

 関所に入るなり、

 大人しくなったと

 思ってな」





確かに。

さっきまでの

魔物の動きは、


門を叩き割ってでも

入ってきそうな

猛襲だった。



しかし、

関所へ近づいてから、

魔物たちの追撃が

止まっていた。




あれほど大量にいた魔物たちが、

今では遠くから

こちらを眺めているだけだ。


まるで、

関所に近づくことを

恐れているかのようだった。







ギィィィ……。



古い扉が開く音がした。



木で作られた、

関所の中に入るための扉が

ゆっくりと動き始める。



息を整えた

冒険者たちが、

中にいるであろう騎士たちに

これからの

話をしようと、

中に入り始めたのだろう。



アルドと

リースもそれに伴い、


違和感を

共有しつつも、

集団を離れることを恐れ、

とりあえず

冒険者たちと

中に入ることにする。




そして。


その向こうから、

甲冑を身につけた

大勢の騎士たちが

姿を現した。




冒険者たちが

顔を上げる。




王国の紋章を掲げた、

二十人ほどの騎士。


間違いなく、

行方不明になっていた

騎士団の者たちだろう。


「おお!やっぱり

 生きていたのか!」



「俺たちは

 お前たちを捜索するよう、

 王命を受けて、

 この関所まで来た

 救援隊だ!」


「何があったのか

 話してくれ!」


「とはいっても、

 俺たちも

 半ば外の魔物たちに

 追い立てられて

 ここへ逃げ込んできた

 ようなものだが!」




冒険者の一人が

声をかけた。



しかし、

騎士たちは

何も答えなかった。


ただ、

こちらを見ている。


そして、

その手には、

抜き身の剣が握られていた。






さらに



グルルルルル……。



頭上から、

獣の唸り声が聞こえた。






リースたちは

その声の主を求めて、

ゆっくりと

上を見上げる。





関所の高い石壁。


そこに。


巨大な獅子のような

魔獣が、

張りついていた。





一頭ではない。


反対側の壁にも、

もう一頭。



二頭の

たてがみを持った

獅子型の魔獣が、

こちらを見下ろしている。






そして、

二頭の獅子が

揃って

大きく口を開いた。



グォォォォォォッ!!!



関所の石壁を

震わせるほどの

凄まじい咆哮が

響き渡る。




すると。


二十人の騎士たちが、

まるで一つの生き物のように

同時に動いた。


カシャン。


カシャン。


カシャン。




「……おいおいおいおい」


「こりゃあ……」


「まだ終わってねえな」



アルドが

小さくつぶやいた。




その剣先が、

一斉にリースたちへ

向けられる。











 
 
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