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世界クジラ ④

10月1日
読了時間: 15分

更新日:10月3日




「嘘」ね─────。











そんなわけがないじゃない───。









あなたは

あの旅人がくる

ずっと以前から



外の世界に

思いを馳せていた。





私が一番

恐れていることは


他の島の子たちが

いなくなることじゃないわ。




あなたが

私のそばから

いなくなってしまうことよ。


ルカ───。




*





他の子たちに

そんな勇気なんてないもの。


だけど

あなたは違うでしょう?



一度胸に決めたことは、

どんな事があっても

最後までやり通す女よ。



だって


あなたは───。


私の娘だもの──。








「こちらも確認お願いします」



「まだあるのね」

「わかったわ、

 そこに置いておいて頂戴」


今日はやけに多いわね…。



その時。


窓の外。


夜の街を漂っていた、

いくつもの石造りの球体が、

一斉に赤く染まった。


淡く街を照らしていた光が、

警告するような赤へ変わる。




セルシアは

杖を持ち、


先端に取り付けられた

天球儀へそっと手を添え

杖に話しかけた。


「何かあったの?」





*

牢屋。



エナのか細い指先が、

震えていた。




ノストが牢に捕まってから

数日がたったある日、


エナが

ノストを逃がそうとしている。


街の外にもあった

宙を浮かんでいる

石造りの球体のオブジェクトが


危険を伝えようと

鋭く赤く光っている。


私が逃げれたとして

このあとエナは

どうなってしまうのだろうか?


それでも

エナは

ノストを助け出そうとしている。





牢の扉には、

大きな鍵穴があり



鍵を差し込み、

そこへ魔力を流し込むことで、

初めて錠が回る

仕組みになっているようだ。




力任せや、

焦っていては

開かない。



魔力を一定に保ち、

鍵の内部に

正確に繊細に魔力を

流し込まなければならない。



けれど。

エナの手は震えていた。


「……っ」


何度も息を整える。


鍵へ手を伸ばす。

しかし指先が震え、

うまく魔力が通らない。


そのすぐ近くでは、

この牢を担当していた

看守の女性が、

水泡(すいほう)のような

半透明な膜の中へ

閉じ込められていた。





ガラスにも似ている。

だが、

そのガラスのような

水中の泡のような膜に

どれだけ拳を叩きつけても

ひび一つ入らない。




看守は必死に

何かを叫びながら、

両手で膜を叩き続けている。




けれど

何も聞こえない。


音すら

あの薄い壁の向こうへ

閉じ込められているようだった。



おそらく、

エナが使った

魔法なのだろう。


エナがここへ来たとき

看守へ向かって、

両腕をまっすぐ伸ばした。



その瞬間。


彼女の両手の間から、

水面に光が走るような

淡い輪が広がり、


看守の周囲で

その光の輪が固まり

上から膜のような壁が出来た


その膜をへだてて

こちらとは

別の場所へ

隔離されたようだった。



だが。

そんな魔法を使った

本人の手は、

今にも折れてしまいそうなほど細い。


そして震えている。


怖いのだ。

このあと、自分がどうなるのか。


きっと分かっている。


それでも。

その小さな手は、

ノストを助けるため


鍵から離れようとはしなかった。


カチッ。

小さな音がした。

「……!」



開いた。




エナが顔を上げる。


しかし

それとほぼ同時だった。


牢屋の入口から、

足音がしはじめる。


一人ではない。

二人でもない。


ぞろぞろと、

何人もの魔法使いたちが

急ぎ足で流れ込んできた。



「早く逃げてください!!!」


エナは振り返ることなく叫んだ。


そして今度は、

エナたちがいる

牢屋へ流れ込んできた

魔法使いたちへ向かって、

両腕を大きく伸ばす。



一瞬。

通路が白く光った。


次の瞬間。

入口から

通路を塞ぐように、


エナの目の前に

巨大な半透明の壁が出現した。


「いそいで!!!!」



そう言われた

ノストは自分の足元を見る。


足枷。

「…………」



牢屋の入口から次々と

迫ってくる魔法使いたち。


足枷まで外してくれ、

とは

さすがに言えなかった。



ぴょん。

ぴょん。

ぴょん。


とりあえず

足を揃えてはねながら

前へ進んでみる。



「い、いそげっていわれても」

「ど、どうやって急ぐのが

 一番早いんだ……?」



ノストは考えながら

とりあえず

飛び続けた


とりあえず

全力で。




そして

以前、 看守たちが何度か 出入りしているのを見たことがある

入口とは反対側にある

扉を目指す。




背後では、


エナの張った

障壁を壊そうと


牢屋へ集まった

魔法使いたちが攻撃を

次々と叩き込んでいる。


炎が弾ける。

氷の槍が砕ける。

風の刃が、

透明な壁の表面を駆け抜ける。


それだけではない。

何もなかった空間から、

剣、槍。

巨大な鉄球。


様々な武器が生み出され、


まるで雨のように

障壁へ撃ち込まれていく。



炎と氷。

風と鉄。

色も形も違う魔法が、

ひとつの壁へ殺到する光景は、


小さな城を一つ、

攻めているのかと思えるほどの

猛攻だった。



それでも。

エナの障壁は壊れない。


攻撃を受けるたび、

水面のように揺れる。


波紋が走る。

表面が大きくたわむ。


だが。

傷一つ入らなかった。





対面する

魔法使いたちが

魔法らしい魔法を

使っているのを見ると


エナの魔法は、

障壁のような

壁を作る魔法なのだろう。




そんな中。


少し遅れて、


牢屋の入口へ

見覚えのある少女たちが

駆け込んできた。



いつもエナと共に

ノストの話を聞きに来ていた、


浜辺から

お世話になっている

エナと

同じ部隊の仲間たち。


彼女たちは、

何人もの魔法使いを相手に

一人で必死にノストを

逃がそうとしている

エナの姿を見て、


その場で固まった。


口元を押さえ

目に涙を浮かべ

その場にしゃがみ込んでしまう

者までいる。



おそらく

普段のエナは、

こんな行動を取るような少女

ではないのだろう。



ノストも

一瞬

逃げることさえ忘れてしまった。


あれほど

震えていた小さな背中が、


はじめて海岸で

あったとき、

逃げ遅れ、

おどおどとしていた彼女が



今、

一人で

精鋭と思われる

大勢の魔法使いたち相手に

遅れを取っていない





恐怖が

ないわけでは

ないのだろう。



怖いまま。

震えたまま。

それでも立っている。


だからこそ、

その姿は勇敢だった。



「おじさまは、

 この島ではなく、

 旅に行くべきです!」


「はやく!」


「本にならなくとも、

 私たちはおじさまのことを

 忘れません!」






「……!」




しかし。

ノストが前へ向き直った瞬間。



足が止まった。



反対側の扉。


そこに

世界灯台管理局の隊長――。


ルカが立っている。




「…………」



先回りされていたらしい。


驚いたノストは、

上手く進むことが出来ず

足枷の鎖へ自分の足を引っかけた。



「うおっ!?」


先ほどまで

必死に跳ねていた

勢いのまま、

派手に前へ転がった。



そして。

その時。



背後から、

音がした。



コツ。

コツ。

コツ。

コツ。



石の床を叩く

高い踵(かかと)の音。


エナの障壁は、

音すら遮断している。


そのはずなのに

ノストまで聞こえる。


高い足音──。



ノストは、

ゆっくりと

後ろを振り返った。




牢屋の入口。



そこから。

一人の女性が

ゆっくりと

歩いて入ってくる。



長いローブ。

巨大な帽子。

天球儀のついた杖。



この島の女王。

魔女セルシア──。










そして

セルシアは

どうしていいのか

分からず、

友の勇姿を眺めていた

エナの仲間たちに


杖を向けた。



そして──

少女たちを焼き殺した





少女たちを焼いた炎は

さらに燃え上がり



人間のような輪郭へと

形状を変える


腕。

頭。

胴体。

脚。



彼女たちを包んだ炎は

炎でできた、

人型の魔人へと変化した。




そして。

その炎の魔人たちは、


エナの障壁へ向かって

一斉に突進し


エナの

障壁を壊そうと

障壁を叩き始めた




「いや……」



その衝撃は凄まじく、

透明な壁が、

大きく揺れた。



そして

エナの口から、

初めて弱々しい声が漏れた。


それまで一人で。

何人もの、

おそらく精鋭であろう魔法使いたちの

攻撃を止め続けていた少女。




その顔から。

血の気が引いていく。




だが、

セルシアは止まらない。


近くにいた

罪のない別の魔法使いを

さらに燃やし、


また一人。

そしてまた一人。


燃やされた者たちは、

次々と炎の魔人となり。

エナの障壁へと向かう。



コツ。

コツ。

コツ。


セルシアは、

その後ろを

ゆっくりと歩き

近づいている



そして

その表情は、

忘れもしない

ノストが

玉座で初めて見た、

あの笑顔と同じ






怒りや憎悪という感情の刃を、

薄い布で包んでいるような


血のついた刃物を

こちらに向けているような

そんな笑顔だ。






その刃が今。

再びこちらへ

向けられていた。



やがて。

障壁の向こう側は、

炎の魔人で埋め尽くされた。



何本もの燃える腕が

壁を叩き、揺らす。




そして。

次の瞬間。



ガラスが砕けるような音とともに、

障壁は、

無数の光の欠片となって

崩れ落ちた。




「バカな子ね」



膝から

崩れ落ちるエナの元へ

セルシアが近づく。




「やるとしたら

 ルカだと思っていたのだけれど」


「まさかあなたがね」

「エナちゃんよね?」


「ルカと同い年で

 おとなしい子だったと

 記憶しているのだけれど」




「一応彼女たちも

 精鋭の魔法使いだったはずなのに」


「それが束になっても

 貫けない障壁の魔法だなんて」


「あなた」

「そんなに優れた

 魔法使いだったのね」




仲間を焼かれ、

魔人に変えられ、

青ざめながら座り込むエナ





そして、

炎の魔人は

セルシアが焼いたはずの

元の人間の姿に戻り

みな、その場で倒れ込んだ



おそらく、

セルシアの態度を見るに

みな生きてはいるのだろう。







*



そして。

ノストの前には、


ルカ──。




「……」




ルカが。

指先で

何もない空間を、横になぞった。

直後。


ガシャン。




ノストの周囲に、

何もないところから鉄格子が

出現した。


そして

ノストに迫りくる

鉄格子によって

ノストはまた牢に囚われた。


そして牢が宙へ浮く。



この牢を操る魔法が

ルカの魔法なのだろうか。



そして

中にいるノストごと、

牢が縮み縮小する


手のひらに収まるほどの

小さな牢屋になった。


それを宙に浮かし、

指先で操作するルカ。






そして

ルカは、どこか

バツが悪そうに

しながら


小さくつぶやいた。





「私なら

 もっとうまく

 逃がせられたのに」



そのまま。

裏扉から逃げ出すルカ。







宙へ浮かせた

小さな牢屋と共に

逃げ出した娘を見た

セルシアは、


一瞬目を丸くした




そして、



「あんの」


「娘ェ~~~~~~………!!!!」



彼女は取り繕うのを忘れ

自身が女王であることを忘れ


そのとき

彼女は

数年ぶりに

感情と表情が一致する。



取り繕った笑顔ではなく。


感情と

完全に一致したそれは、


正真正銘。

怒りの顔だった。





*




「追って!!」



まだ動ける魔法使いたちが、

慌ててルカが逃げた

裏扉へ駆けていく。



セルシアは、

杖の先にある

天球儀へ手を添える。



目を閉じ。

意識を街へ広げる。


次々と。

街の景色が流れ込んでくる。


しかし。


裏扉の先で

見つけたのは、


小さな牢屋に

詰め込まれ、

へたり込んでいる

魔法使いたち。



「…………」


ルカの仕業だ。




「ルカが一人で

 突っ立っていることに

 早く気づくべきだった!!!!」




それまで

必死に保っていた

女王としての威厳など、

もうどこにもなかった。



頭から湯気でも出そうなほど、

怒り。

焦り。

苛立ち。


そのすべてが顔に出ている。



もう一度。

天球儀へ手を添える。



「世界灯台の方に

 管理局のものを向かわせて」

「近くにあるはずの

 旅人――…」



「いえ」

「囚人の船を押さえて」



再び。

目を閉じる。



ノストが

この街へ来た時

真っ先に気になった、


街のそこら中を漂っている

不思議な球体。



あの球体はおそらく。


街を監視する目であり。

魔法師同士の

連絡ツールなのだろう。




そして

セルシアの杖にある天球儀は、

その全てと繋がっている。



「……見つからない」


セルシアが

目を開ける。


「おそらく 水の中に潜ったわね」

「この街の弱いところを」

「ちゃんと突いているわ……」



舌打ちでもしそうな顔で。

セルシアは

牢獄の入口へ向き直り



歩きはじめ、

早足になる。


そして。

めずらしく必死に

走りはじめるセルシア。



長いローブが、

床へ引っかからないよう

片手で持ち上げる。


大きな帽子が、

走るたびにずれないよう

もう片方の手で押さえる。


高い踵が、

石の床を叩く。


コツッ。

コツッ。

コツッ。


いつもであれば、

女王の威厳を彩る音。


しかし

今は、

必死に娘を追いかける

母親の足音でしかなかった。




世界図書館の

灯台がある方向へ。

セルシアは、

必死に走った。



*

夜の街。



セルシアは走りながら。

過去を思い出していた。




私は

魔法の腕を磨くことこそが、

仲間を守ることに

繋がると思っていた。



強くなれば。

困っている人を助けられる。


大切な人を守れる。


だから

幼い頃から。


魔法だけは、磨き続けてきた



その強さが

仲間を。味方を。

そして。


いつか夫になる男の子を。

傷つけることになるなんて


思ってもいなかった。




私は

ただ

ずっとそばにいてほしかった。



仲良く平和に。

温かい家庭を作りたかった。



そのために

私は強くなった。



それなのに

みんな

私のそばから離れていく。




そして今。

実の娘にまで

私は逃げられている。



どうして

みんな

私から逃げてしまうの?




私は

みんなを守ろうとしているだけなのに。




夜風が

セルシアの頬を撫でる。



そしてなぜか

分かってしまった。



このまま娘を逃がせば

夫と同じように

ルカとも

もう二度と

会えなくなる。



そんな気がした。









*



世界図書館の灯台とは、

真逆に位置する浜辺。




そこに

ノストが乗ってきた

小さな船が置かれていた。



壊れていた部分には、

新しい木材が

打ちつけられている。


簡単ではあるが

海へ出られる程度には

修復されていた。



ルカは

小さくしていた

牢屋をもとに戻し、


ノストを出した。



そしてノストの

手錠や足枷。

すべてを外す。




「本当は明日」

「お前を逃がすつもりだったんだ」



ルカは口を開いた。


「私なら

 街の警報装置を反応させずに

 お前を牢屋から出すことが

 できたからな」



話しながら。

ノストと共に船へ乗る。


帆を確認する。

荷物を積む。

縄を外す。



「しかし」

「ふふっ」



ルカが笑った。



「きっと母も

 今頃大慌てだろう」



「いつも取り繕って」

「我慢などしているから

 娘に出し抜かれるのだ」


「いつも一人で

 強気に振る舞って」


「私は強い女ですと

 言わんばかりに」


そして

嬉しそうに笑う。


「本当は人一倍」

「寂しがり屋な

 弱い女のくせに!」


「それをいつまでも

 強がって隠しているから」

「私にも父にも

 出ていかれるのだ!」



船が、

岸を離れ始めた。

浅い海。

水を切る小さな音。



「しかし」


ルカは

海を見ながら続ける。


「一番の誤算があるとすれば」

「私も共に

 お前と海に出るということだな」



「私がお前を逃がすところを

 大勢のものに

 見られてしまった」


「もうあの島に

 戻ることなどできん」



「だけど私が」

「あのような行いを

 することになるとはな」



「きっとエナの戦う姿を」

「目の前で見たからだろう」


「まさか私より先に」

「あのおとなしいエナが

 あのようなことをするとは」



「それに」

「感化されてしまったのだろう」


ルカは、

胸元へ手を当てる。


「今でも」

「興奮が収まらん」



そして。

ルカは髪をまとめた。


いつも肩から垂らしていた

マントを脱ぎ、丁寧に畳む。


それを、

そばへ置いた。


まるで。

島へ残していく

自分自身を畳んでいくように。



そして。

ノストを見る。







「ノスト、だったか?」


「私を連れて行ってくれ」

「お前の冒険の旅へ!」

「…………」



ノストは。

ずっと。



何が起きているのか、

処理できずにいた。


牢から逃げたと思ったら。

小さな牢屋になり。

女王が追ってきて。

いつの間にか船に乗って。


そして今。

目の前の少女が

旅へ連れていけと言っている。



「…………」


数拍。

そして。


「は」

「はは」

「はははははははは!!」


ノストは笑った。

大きく。

腹の底から。



そして

水平線の向こうから

光が差し始める。



朝日


先程まで

暗い色をしていた白い海が、

朝日に照らされ、

ゆっくりと黄金色に染まっていく。




ルカは

島を振り返った。


当然のように

空には

世界図書館の

巨大なクジラが

島の上を泳いでいる。



いつもと同じ

はずなのに。



今日だけ

妙にそのクジラが

嬉しそうに見えた。



だが、

クジラのあの目。


あの目は

不器用な父娘を

乗せたような

私たちの船出を

祝福している目ではない。



どうせまた帰ってくると

そう知っている者が、

何も知らない旅人を

バカにするような。


少し下卑た不愉快な目に見え

あまりうれしくはなかった。






*


数年後。




金色よりも柔らかな

枯草色の髪。



一人の淑女が

ドレスをまとい。


石造りの玉座へ脚を組んで

座っていた。


その傍らには


数冊の本が置いてある

その本を一冊手に取り

ぱらぱらとめくる。


しかし

お目当ての内容では

なかったようで

少し不満そうだ。



そして

彼女は昨日読んだ

本を思い出す。




海賊女王セルシア──。



そう、

その本はなんと、

エナの先代の女王


この島の

元女王、魔女セルシアの

本だった。




その本によると、

彼女は島を出たのち、

海賊となっていた。


数多の海を渡り

数多の戦を繰り返しながら、


娘と夫を

探し求めたという。



だが現在は。

占い師となり、

水晶を使い



世界中の人間が見ている景色を

覗き込みながら。

夫と娘を探しているという。



「ふふっ」


エナが笑う。


「おじさまとルカなら」

「時々この島に

 帰ってきてるのにっ」



どうやら

セルシアは運悪く


まだ一度も、

ふたりを見ることが

できていないらしい。



そして

エナは

次の本を開く。



かつて

この島は、

島を囲う大渦によって

外の世界との交流は

完全に絶たれていた。




しかし

エナの守りの魔法


そして

島中を浮遊する監視用の球体。



それらを利用することで

安全に島へ出入りできる

ようになった。



そして

島の外へ飛び出したくて

仕方のなかった

セルシアに代わり



エナが

杖を持つこととなり

この島の女王となった。



そして

エナは、この島に

とらわれることとなった。



けれど

本人にとって

さほど悪い話ではなかった。


なぜなら

エナは幼い頃から

ずっと


世界図書館の本が

好きだったのだから。




一人で旅をすれば

見られる世界には限りがある

けれど


ここには

世界中から

物語が流れ着く。




一冊を開けば

一つの世界。


次の一冊を開けば

また別の世界。


だから

彼女にとっては

島にいる方が

ずっと多くの世界を見ることができた。




そして今

外との貿易が始まり


島には

以前とは比べものにならないほど

多くの人が訪れている。



人が来る

物が来る

物語が来る



今日も

子どもたちが

世界図書館の灯台へ

いくつもの漂流物を

持ってくる。



形あるものが

文字へ変わる。


文字は

螺旋を描きながら

空高く舞い上がる。



そしてまた

深く

低く

世界図書館のクジラの

歌が響き渡る。



今日はどうやら

ご機嫌らしい。




それは

海の底から

世界そのものが

昔話を語り始めたような声だった。



祭壇には

また新しい本が現れる。




エナは

ページをめくり

次のページを読み始める





そして今日も


空飛ぶクジラの住む島は

今日も今日とて

本を編む。

   



世界クジラ -fin-





 
 
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